Jordan, Robert - ロバート・ジョーダン

これを予期していたかのように現れ、村を救った異能者モイレインは、村の若者であるアル＝ソア達に意外な事実を知らせるのだが。。。

過去から未来へと、延々と続く光と闇の戦いをベースに、予言に誘われるように壮大な物語が展開していく。

他のエピック・ファンタジーと比べて、魔法の扱いが変わっていて面白い。

まず、魔法使いは異能力者と呼ばれて恐れ敬われているのだが、現在存在するのは女性ばかり。

魔法自体も「絶対力」と一風変わった呼ばれ方をするのだが、その発生源は万物源と言われる存在で、女性と男性では異なる側面から力を得るという設定。

しかし、過去に大きな力を持った闇王が男性の異能者が接触する万物源を汚染してしまい、それをに触れようとする者はことごとく発狂してしまうのだ。

原著で１巻のところを５分冊にして本書だが、かなりのボリュームであるにも関わらず、物語の出発点に過ぎない。

読み始めるには出版を待たされることを含めて、かなりの覚悟が必要かも知れない。

これまで様々な勢力に翻弄され続けてきたアル＝ソアですが、不透明ながら自分なりの計画を持ち始めたようで、ちょっと安心させます。

しかし、彼を取り巻く環境は相変わらず混沌としていて、誰が味方なのか判然としない状態が続きます。

予言されている闇王とアル＝ソアの対決は避けられないものでしょうが、一番判らないのは、白い塔の動きで、よしんばアル＝ソアを確保したとしてどのように運用するつもりなのかサッパリ判りません。

ここのところを現実世界に置き換えてみると、巨大な力を持つ闇王と竜王の再来であるアル＝ソアは核兵器みたいなモノで、敵対国の核武装（闇王復活）に対し、核（アル＝ソア）の危険性を認識しつつも自国（白い塔）も装備しようとしているというイメージかな。

アリルミン位交代前も後も、市井で発明された核を自らの管理化に入れようとしているという態度だとすれば理解できるな。

すると、闇セダーイ達の独自の動きは、核装備国（闇王）の庇護にありながら、その現状に満足せずに自ら核を装備して第３勢力として台頭しようとしていると捉えることができます。

こういった推測からは、アル＝ソアにとって、特に勢力としての味方は存在しないということになります。

アル＝ソアの唯一の手持ちの駒と言えるアイール人も、その半数しか統率していないわけですから、今後どのうようにして、対闇王の勢力をまとめていくのか楽しみです。

一方、闇セダーイ達は、取らぬ狸の皮算用よろしくアル＝ソアを倒した後の自分の地位を確保しようとそれぞれに思惑を抱き、分裂してしまった＜白い塔＞もそれぞれに動き出す。

タール・ヴァロンから離脱したアエズ＝セダーイ達は、異例ながら年若いエグウェーンを＜小さな塔＞の新アリルミン位として選出するのだが・・・

アル＝ソアは本巻の中で、その危険性から中世の魔女狩りのような扱いを受けている男性の異能者を集め＜黒い塔＞を組織するのですが、実際はいつ発狂するか判らないチンピラの集団。

その＜黒い塔＞を実際に指揮するマツリム・テイムも裏切りそうなカンジがするので、今後も目が離せません。

他に気になるのは、ジョーダンが女性キャラクターの衣装について言及するときに必ず出てくる単語「襟ぐり」。

まぁ、その女性の性格の一部を示すモノではあるのでしょうが、この単語をやたらに使いすぎているような。。。

約半年に渡り、８分冊という形で刊行された第６部ですが、原著は１冊本として刊行されています。

分冊化することの問題は、山場のない巻が存在してしまうことで、本来のプロットの全体像が見え難い点でしょう。

価格の安い文庫で刊行されるのは嬉しいことですが、実際には「次の章」にあたる分冊続刊を１ケ月近くも待たされるのは辛いものがあります。

ハリー・ポッターの第４巻も２分冊化されましたが、販売形態は著者の意向でセット販売に限定されてました。

本シリーズも、せめて分冊全てを同時刊行してくれないものでしょうか。

ケーリエンに戻った彼が目にしたのは、＜太陽の玉座＞に座すコラヴェーレの姿。

アル＝ソアは＜竜王の再来＞の不在を良いことに、本来エレインのものとなるはずの王位を簒奪しようとしていたコラヴェーレに対して厳しい裁決を下し、ターモン・ガイ・ドン（最後の戦い）に備えるべく＜闇セダーイ＞サマエルの支配するイレイアンに大規模な奇襲をかける・・・

いよいよアル＝ソアが予言どおりに＜全界＞を掌握しはじめました。

王者然とした言動は、自らの運命にウジウジしていたころとは一変しています。

一方、死亡したと思われていたアノ人の帰還、謎の異能者集団や伝説に過ぎないと思われていた異能者の登場、などなど、尽きせぬ複線が張り巡らされ、第７部に達した本作ですが佳境を迎えるどころではないようです。

今後はしばらくアル＝ソアの"国取り"を中心に展開すると思うのですが、せっかく巻頭に地図があるのですから、彼が掌握した地域を物語の進行に併せて塗りつぶしていったら面白いのではないでしょうか。

一方、＜竜王の再来＞であるランド・アル・ソアは、来るべき戦いに備えて、全界の掌握を進めるのだが、大艦隊を率いてやって来たショーン・チャン人が異能者を兵器の如くに使役して、アル・ソアの思惑を阻止する動きを見せる。

苦戦を強いられたアル・ソアは、再び＜不触の剣＞カランドアを手にするのだが・・・

とうとう第８部が完結。

「誰が信頼できるのか？」という疑問は、強大な力を持つ異能者達に囲まれたアル・ソアをはじめ、＜小さい塔＞で自らの地位確立を急ぐエグウェーンや、元祖＜白い塔＞で黒アジャを探す異能者達全ての脳裏を常に占め、読者である私も疑心暗鬼の塊となってしまった。

特に気になるのは、自ら＜竜王の預言者＞を名乗り膨大な数の信者を抱えるマセマ。

狂信者の暴走は、今後アル・ソアの運命に大きな影を投げかけそうだ。

壮大で魅力的な登場人物も多く、面白いとは思うのだが、分冊刊行に長期間を要するため「ノリ切れない」というか「のめり込めない」というか、なんとも歯痒い思いをさせられる。

書籍に限らず、連続するシリーズには単位毎の「引き」が要求されると思う。

分冊化そのものは仕方ないとしても、「部」の発行時期は同一にすべきではないだろうか。

訳者のあとがきによれば、第１０部までの翻訳原稿は既に出版社に渡っているとのことなので、なおさらそう思わずにはいられない。

エレインは暗殺を防ぐために王国軍総大将に任じた護衛士のビルギッテに命じて近衛隊の編成を急がせる一方で、アビエンダと第一姉妹の契りを結び、更にミンも交えた三人は突然シームリンを訪れたアル＝ソアと護衛士の結んで共有関係に。

闇王との対決が間近に迫るなか、アル＝ソアは男性源（サイデイン）の穢れを浄化するという一か八かの賭けに出る決心を固めるが、闇セダーイばかりか、裏切り者の闘竜士にまでも命を狙われるようになった彼は、敢えて絶対力を使えない町ファー・マディングで裏切り者達を向かえ討とうとするのだった・・・

分冊が刊行される都度読んでいては物語がコマ切れになってしまうので、今回は５分冊全て揃ってから一気に読んでみたところ、やはりストーリーの流れに乗り易くて楽しめた。

しかし、主人公であるアル＝ソアの動きと同時並行して、それぞれ別に行動している親友のマットとペリン、更に二つに分裂した＜白い塔＞のそれぞれやアンドール王国で基礎固めを急ぐエレイン王女など「一方その頃」が沢山存在するため、ページ数が多い割りには物語自体はそれほど進展せずにもどかしく感じる。

巻末の訳者あとがきによれば、作者は第１２部で完結させる構想らしいが、ここまで風呂敷を大きくしてしまうと、今後はかなり急激に収束方向に向かう必要がありそうだ。

大枠としては類似作品が幾つもあるが、絶対力と呼ばれる魔法が世界に及ぼす影響力は他に類を見ないスケール。

攻撃を受けた者の肉体ばかりでなくその存在事実を歴史上から消し去る＜禍いの炎＞や、大陸規模での天候操作などが印象深いが、今回は更に世界の摂理の半分を支配している男性源（サイデイン）までも変質させてしまう。

「ここ一番」という場面で使われるからこそ魔法の神秘性や有り難さがありそうなもので、実際のところ多くのファンタジーではこの作品のように火の玉が頻繁に飛び交うことはない。

魔法を出し惜しみしない珍しいタイプの物語だ。

前巻でアル＝ソアとエグウェーンが男性源（サイデイン）の穢れを取り除く際に解き放った絶対力のうねりは、全界中を震撼させた。

マットに助けられてエバウ・ダーから大道芸人一座に潜り込み、逃亡の旅の途上にある＜異能者＞達。

シャイドー・アイールに連れ去られた妻を追うペリンに同行するアイール人の賢者達。

アル＝ソアと絆を結び、更には彼の子をその身に宿しているエレインは、シームリンで異変を感じ取る。

当然ながら、分裂した二つの＜白い塔＞内部でもそれぞれに正体不明の巨大な絶対力の使用に気付き、憶測が飛び交った。

一方、シャダー・ロゴスから戻ったアル＝ソアは、バシーア公、ロゲイン、ロイアルの三人に次なる奇策を伝える。

「二つ目標があるときは三つめの標的を狙え」

闇王とショーン・チャン人という二つの巨大な勢力と同時に戦うことを諦めたアル＝ソアは、三人に対してショーン・チャンとの同盟交渉を命じたのだった・・・

今回は主人公アル＝ソアを始めとして、登場人物達の動きが少ない巻となった。

それは、マット、ペリン、＜白い塔＞といった各味方勢力にあっても同じなのだが、それぞれ弓を引き絞るかのように、闇王との最終的な決戦に向けて緊張感を高めていくのが狙いのようだ。

単巻では、起承転結の「結」を欠いた構成となっており、甚だもどかしい読後感だが、あまりにも長大なため、連続ドラマ同様に故意の「引き」を作っているのかも知れない。

ここに来て原著の刊行ペースが落ちているようだが、構想としては全１２部とのことなので、間もなく完結しそうだ。

世界中に多くの読者を抱える本シリーズの、１０年を優に超える刊行期間中には、結末を待たずして亡くなられた方も相当数存在すると思う。

緻密な架空世界にリアリティを持たせるために、ある程度長くなるのは仕方の無いことであるとは思うが、全般的に冗長な文章をを見るにつけ、物語を伝えるのにこれだけの冊数が本当に必要なのか疑問を感じる。

＜最後の戦い＞が真近に迫り、全界のそこかしこで前兆が現れ始めた。

闇王との戦いに全力を傾注するため、アル＝ソアｆショーンチャン帝国との休戦を求めて皇族である＜九つの月＞宮殿の姫君との交渉を試みるのだが、会見の場に現れたのは偽者であるばかりか、闇セダーイの一人セミラーゲだった。

一方、ショーンチャン帝国では女帝が暗殺されており、セミラーゲに唆された女貴族シュロスが皇位継承者のトゥオン王女を亡き者として自らが女帝を僭称しようと企んでいた。

成り行きからトゥオンを保護することになったマットは、未だ彼女が＜九つの月＞宮殿の姫君であることは知らないものの、アルタラ国から脱出させようと同道していた大道芸人一座を離れるのだが、偶然にも彼の指揮下にある赤手軍と合流することとなり、トゥオンを狙うショーンチャン帝国の軍勢と真っ向から戦う。

ペリンは妻ファイールを拉致したシャイドー・アイールを追ってマルデンの要塞へと辿りつくが、防壁による守りは堅く、その中にはアイール人の戦士のみならず絶対力を操る賢者が数百人も居た。

彼もまた、シャイドー・アイールを倒すためにショーンチャン軍と一時的な休戦協定を求め、絶対力の使い手を無力にする二股根のお茶を手に入れのだが・・・

これまで接点が判然としなかった＜歴史の織り人＞である三人の運命が、ここにきて交差してきた。

織物に例えれば、横糸が入ることによって模様の形がはっきりしてきたというところだろう。

＜最後の戦い＞が目前だというのに、力づくで諸国を纏めなければならないアル＝ソアの苦労は耐えないが、闇王にも悩みはありそうだ。

腹心たるべき闇セダーイ達は、不死の割には妙に功を焦る傾向があるようで、本巻ではセミラーゲが戦列から脱落。

櫛の歯が抜けるように、確固撃破されたのはこれで何人目だろうか。

圧倒的に高い能力を持っている闇セダーイも、再発見された＜結合の技＞で乗算的に力を高めることが可能となった異能者や聖竜士との直接対決では分が悪くなってきた。

トゥオンとマットの婚姻によってショーンチャン帝国も＜最後の戦い＞に参戦することが予想されるため、闇王としてはそろそろ良い出目を出さないと敗色濃厚になりそうだ。

２００７年９月１６日、著者急性のため第１２部（最終巻）"A Memory of Light" は未完となったものの、時がめぐれば完結を見ることになるだろうか。

時の車輪（タイム・ホイール）の回転には始まりも終わりもないのだから・・・

書影

異能者候補のモイレインとシウアンは、アミルリン位タミラの執務室に居合わせたことから、偶然重大な秘密を知ってしまう。

タミラの右腕である記録管理者のジタラは、異能者の中でも数少ない＜予言の技＞を持っているのだが、その能力を発揮するのに時と場所を選ぶことは出来ない。

「あの男が生まれます！　あの男の存在を感じます！　生まれ変わった竜王テラモンが、＜竜王の敗翔＞の斜面で産声を上げます！　竜王が現れます！　竜王が現れます！　光よ、お助け下さい！　赤子の竜王が雪のなかに横たわって、大声で泣きます！　絶対力で、全身が太陽のように輝きます！」

竜王の再来は、来るべき闇王との最後の戦いにおいて鍵となる存在であり、無力な赤ん坊のうちに闇王の手に落ちては全界が失われしまう。

ジタラはこの予言を最後に命を落とし、全界最大の秘密を知るのはアミルリン位と、異能者候補に過ぎないモイレインとシウアンの３人のみ。

諸国の王もその権威に従う＜白い塔＞に君臨するタミラは、機密を保ったまま竜王の再来の所在を突き止めるために一計を案じるのだが・・・

大荒廃地に飲み込まれてしまった「国無き王」であるランについては、現在進行中の本編で見せる性格と変わらないが、超然として見えていた異能者らしい異能者モイレインが異能者候補であった頃の様子は結構意外だった。

竜王の再来探しに出かけられずイライラし、異能者となるための試験を前にビクビクする様子は、本編からは想像が難しい。

多くの女性キャラクター達が落ち着きの無い様子を見せる本シリーズの中で、どっしりと構えてた希少な存在だっただけに残念に感じた。

敵である闇セダーイも物語が進むほどに軽薄な雰囲気が強くなる中、”伝説の異能者”と言われる最長老のカドスアン・セダーイが非軽薄系キャラクターとしては頼みの綱だが、彼女の修練生時代を取り上げた外伝があったらもしかして・・・